画質と音質にこだわるなら、Super HiVi CAST

スーパーHiVi CASTで復習するAVの基本
【第2回】謎のゴーストの正体とは?

以下の記事は2009年9月号(8月17日発売)に掲載したものです。

前回は、私たちが使うテレビやプロジェクターの表示デバイスが大きく変ったことについて考察した。デバイスには限界があって、それを補うために、高度かつ多様な信号処理と補正が必要なことも。スーパーHiVi CASTを製作する過程で、こんにちのディスプレイがもつそんな高度なテクノロジーにも弱点があることがわかってきた。今回は実際に起こった、映像調整にまつわる誤解とその解決方法の一案についてお話しよう。

ブラウン管時代の調整感覚は捨てた方がいいかもしれない

 先日、HiViの視聴でこんなことがあった。スーパーHiVi CASTのテスト信号の「2・モノスコ」を表示すると、特定の映像モードで、垂直な黒い線の両脇にゴーストのような偽信号が発生するというのだ。映像モードを切り替えると消えるが、肝心カナメの映画モードでははっきりと残ってしまう。これはきっと高度な補正回路の影響にちがいないと悪戦苦闘。設定メニューの最深部にいたるまで、回路のオンオフを試すが、いっこうに消えてくれない。どうにも困った担当者は、そのテレビのメーカー担当者にメールを送り、現象を説明して助けを求めたのだった。

 ところが返って来たのは「それはシャープネスですね」という意外な答えだった。シャープネスとは、映像の輝度(白黒)信号の高域周波数特性を強調したり、弱めたりして、文字どおり映像の鮮鋭さを演出する調整項目だ。「えっ、これってシャープネス?」
どう考えても納得のいかない担当者は、実機でその現象を確認してもらおうと、ついにそのメーカーへ乗り込むことになった。

 7月某日メーカー会議室。今回の取材に使ったテレビそのものを眼の前にし、スーパーHiVi CASTをかけてみる。出画するテスト信号は取材時と同じ「2・モノスコ」。映像モードはシネマ系だ。すると、やはり同じように垂直な黒線の両側均等にゴースト状の偽信号が現われた。メーカー担当者は、おもむろにリモコンを手にすると、映像調整項目からシャープネスをピックアップし、数値を+方向(シャープに見える方向)に変更。するとあら不思議、偽信号が消えて、スッキリとした黒線が描き出されたのだ。

 ブラウン管時代に養った映像調整の感覚では、画面上の表示はともかく、シャープネスはデフォルト(工場出荷時の設定)でいくらかの補正行なわれているケースが多かったように思う。そしてその補正はブラウン管の電子ビームで実施されていたこともあって、ひじょうになめらかだった。数値をマイナス側にふれば素直にボケた映像に、プラス側にふれば線画のエッジが強調されてキリキリとした絵になった。

 ところが、このテレビをはじめとする固定画素型ディスプレイでシャープネスの数値変更に伴う映像の変化を見てみると、それとはまったく違う振る舞いを見せることに気づかされる。固定画素型タイプのテレビをドットバイドット表示で使う場合(入力された信号1画素をディスプレイの1画素に一致させる表示方法。画素変換による悪影響がでにくい)、シャープネスをかけるという動作は、隣接する数画素の輝度を上げるということに他ならない。一方シャープネスを弱めるという動作は、ボカすという画像処理が要求されるわけで、たとえば黒の垂直線に対してなら、隣接する数画素で少し薄くした黒の垂直線を描画する必要がでてくる。今回、われわれがゴーストとして認識したのは、このシャープネスをボカすときに描画された部分だったのだ。ちなみにこのテレビで、黒の垂直線の両側に原信号以外の偽信号が認められなかったのは、シャープネス0の状態。つまりブラウン管時代の習慣で、映像全体がすっきりとさせるためにシャープネスを少し下げてしまうと、かえって映像品位が落ちてしまうケースがあるというわけだ。

昔の名前で出ています。基本5項目一同っ!

 じつはこうした感覚は他の映像調整にも存在する。それは、ブラウンから液晶、プラズマへと、テレビの原理がまったく変ってしまったのに、映像調整項目やその名前が変らないからである。現在のテレビが持っている映像調整項目やその呼び名は、言ってみれば昔の呼び方に引きずられているもの。見方を変えれば、テレビの方で、ことばに合った映像の変化を演出しているということもできる。

 スーパーHiVi CASTを制作しながら、たくさんのテレビやプロジェクターでさまざまなテスト信号を再生し、そして映像調整をしながら痛切に感じたのは、映像表示機器における映像調整パラメーター、すなわちコントラスト、明るさ、色の濃さ、色合い、シャープネスの基本5項目の選択を、そろそろ見直した方がいいのではないかということだ。固定画素時代にマッチした新しい映像調整基本項目の創設。液晶テレビの上級モデルには、すでにデバイスの特性にマッチした調整項目がいくつか搭載されはじめている。今の技術をもってすれば、大きな画面上に、表現力豊かなGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)を展開することもできるだろう。それらを調整していくことで、最終的にハイライトの輝き、シャドウの表現力、自在な色のコントロールなどが実現されればいいと思う。一般のテレビ購入者が戸惑うというのなら、初期設定のときに、従来どおりの基本5項目か、新しい調整項目かを選択できるようにしておけばいい。先進的かつデバイスにマッチした映像調整項目を持った固定画素テレビ。どこかのメーカーで作りませんか?(スーパーHiVi CAST担当 K)


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